Restart~あなたが好きだから~
「1週間務めてみて、藤堂さんは、秘書って仕事をどう思った?」


「えっ?」


「どう、好きになれそう?」


「城之内さん・・・。」


穏やかな口調でそう尋ねて来た城之内に、七瀬は一瞬息を呑んだ。


「自分の話をさせてもらうとね、私は最初っから秘書志望だった。秘書という職業に憧れて、大学の時、勉強して秘書検定1級の資格も取った。」


そんな七瀬に、城之内は語り始める。


「その試験対策に買ったテキストの最初のページに、秘書に向いている人はこんな人だって、5つの項目が書かれてた。今でも忘れないんだけど、1番目に書かれてたのは『サポート役に徹することができる人』だった。」


「・・・。」


「でも藤堂さんは、これまで営業の最前線でバリバリと思う存分に自分の力を発揮して来た人。そんなあなたがいきなり、『上司にお仕えする、お支えする』という表現がピッタリのサポート役に徹することを求められる職務に就くことになった。戸惑いや不満を感じて、むしろ当たり前だと思うんだけど。」


真っすぐに自分を見つめたまま、そう言って来た城之内に


「今回の辞令に戸惑ったのは確かですが、プライムシステムズの社員として、与えられた職務に全力で取り組むのは当たり前のことですから、不満なんてありません。」


七瀬は答える。


「そっか。実はその5項目なんだけど、残りの4つは

・細かい気遣いができる人
・優先順位をつけて無駄のない仕事をできる人
・管理能力に優れた人
・余計なおしゃべりをせず、胸の内にしまえる人

だった。1週間のお付き合いだったけど、今の4つは私の目から見ても全然問題ないと思った。でも最初の『サポ-ト役に徹する』だけが、ちょっと心配だったんだ。でもさっきの藤堂さんの言葉を聞いて、安心した。やっぱりさすがだね。」


そう言って、城之内は微笑んだ。その表情を見ながら


「でも・・・。」


と切り出した七瀬は、一瞬躊躇った後


「正直に言わせていただければ、自分が秘書に向いてるのかな、城之内さんの後任が務まるのかなって不安は、1週間経っても全然拭い去れないです。週が明けたら、専務室は機能不全に陥ってしまうんじゃないかって。」


率直に胸の内を明かした。その思いを聞いた城之内は


「それは大丈夫だよ。よく、あの人がいなくなったらどうしようとか大変だとかって騒ぐけど、結局なんとかなっちゃうもんなんだよね。会社っていう組織は、そんなもんだよ。」


と言って笑うが、七瀬の表情は固いままだった。
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