Restart~あなたが好きだから~
席に着くや


「注文と焼きは俺に任せろ。」


と言った氷室は、七瀬に全く口を挟ませずに、オーダ-を済ませ、料理が来ると、次々と鉄板の上に乗せ始める。


「専務、焼くのは私がやりますから。」


さすがに七瀬が言い出すが


「お前は食べるのに専念してろ、俺は自分が焼肉奉行じゃないと気が済まないんだ。」


氷室はトングを手放そうとしないので仕方なく、彼がするに任せていると、手際よく焼き、そして七瀬の皿に肉を入れ、自分の口にも運んでいる。


(手慣れてる、やっぱり・・・。)


七瀬が更に感心したのは、氷室の肉の注文量だった。多すぎず、少なすぎず、まさに適量。


「お肉の注文って、結構難しいんですよね。1人前って言っても、実際にどのくらいの量が出て来るか、お店によっても違いますし。前に友だちと焼肉行って、食べ切れなくなっちゃって、困ったことがありました。」


と言うと


「男女問わず、焼肉の注文は苦手な奴が多い。俺のリサ-チによれば、特に20代の女性は、ほとんどわからないといってもいいな。だから俺みたいな焼肉奉行が必要なんだ。」


真面目な顔で、氷室が答えるから


「さっきもおっしゃってましたけど、専務はどこでどうやって、そういうことをリサーチされてるんですか?」


七瀬が尋ねると


「それは・・・内緒だな。」


と答えて氷室はニヤリ。その表情に、七瀬は思わずクスクス笑い出す。


(私、会社のそれも男性と、こんな風に話したことないよな・・・。)


ふと、そんなことを考えてしまった。こんな雰囲気で食事を済ませ、デザ-トのアイスとコーヒ-を待っていると


「さ、少し真面目な話をするか。」


氷室が表情を改めるから、七瀬も姿勢を正す。


「今日の営業会議に出て、どう思った?」


「どう、とおっしゃいますと・・・。」


「あの雰囲気だよ。」


「雰囲気?」


「今更説明するまでもないが、ウチの会社は親父が30歳の時に、友人とたった2人で立ち上げた。IT業界そのものがまだまだよちよち歩きで、海のものとも山のものともわからなかった頃で、時流に乗ることが出来たことは間違いないだろうが、それにしても約30年で、会社をここまでの規模にした手腕には、実の息子である俺も素直に敬服するしかない。」


「はい。」
< 84 / 213 >

この作品をシェア

pagetop