Restart~あなたが好きだから~
七瀬が帰社して来たのは、もう夕刻になろうかという時刻だった。同僚たちの自分に向ける冷たい視線も知らぬげに係長に何事かを報告すると


「わかった。それは課長のお耳にも入れておいた方がいいな、行こう。」


係長が言い、2人はそのまま連れ立って課長のデスクに向かう。そのあと3人は面談室でなにやら話し始め、それが終わったのは、結局終業チャイムが鳴ってから20分程経ってからだった。


「じゃ、藤堂くん。その件は引き続きよろしく頼むよ。」


「かしこまりました。」


上機嫌で七瀬に告げた課長は、そのまま帰宅の途につき、係長も後に続いて退社して行った。2人を見送り、自席に着いた七瀬に


「藤堂。」


怒りの表情を隠さないまま、若林が呼び掛けて来た。


「どういうつもりなんだよ?」


「何が?」


「何がじゃねぇよ。お前、今日の田中のプレゼン、勝手に自分でやっちまったそうじゃねぇか。」


嚙み付いて来る若林の方を見向きもせず


「自信あったんだ、あの内容で?」


七瀬は冷たい声音で田中に言う。その声に思わずハッと息を飲む田中に


「私、言ったよね。1人で悩まないで、相談してって。」


七瀬は厳しい視線を送りながら言う。


「でも君はなんにも言って来ないで、昨日の退勤時間ギリギリになって、あの提案書を持って来た。私は一目見て、ダメだと思ったけど、でもあの時間から、何を言ったって、もう間に合わないと思ったから、私は何も言わずに、自分で提案書作ったんだよ。」


「あの後から、ですか?」


「うん。君からの報告を聞いて、自分の中ではある程度のドラフトは出来てたから。でもさすがに朝まで掛かって、今朝は時間ギリギリになっちゃったけどね。」


「・・・。」


「君はなんの為に今回の提案書を作ったの?」


「えっ?」


「それはお取引先に認めていただいて、商談をまとめる為だよね。でも君のやってることは、私にうるさいことを言われたくない、言わせない、それが第一義になってるようにしか見えないんだけど、違う?」


「・・・。」


「自分の仕事の目的を勘違いしないで欲しいな。君の仕事の目的は自社の商品をお取引先に買っていただく、ただそれだけのはずだよ。仕事をしてる振りをして、上司の目を欺いて、いい加減な提案書作ったって、そんなもの誰も相手にしてくれないし、お取引先の信用を失うだけ。そのうち誰にも相手にされなくなって、会社でも居場所を失うよ。」


思わず俯いている田中にそう言い残すと、七瀬はオフィスを出て行った。
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