Restart~あなたが好きだから~
「えっ、ちょっと七瀬!」


何事かと驚いて呼び止める沙耶の声に、振り向きもせず七瀬は走る。


(こんなに走るの、いつ以来だろ・・・。)


運動にあまり縁のない生活を送っている七瀬の脳裏に、思わずそんな思いが浮かぶ。そして息を弾ませ、懸命に走った彼女がようやく目指す後ろ姿に追いつき


「佐倉さん!」


と呼び掛けると、寄り添って歩いていた1組のカップルが同時に振り向いた。


(見間違い、じゃなかった・・・。)


女性の方の顔を確認した七瀬は、彼女に厳しい視線を向ける。その視線に、一瞬息を呑むような様子を見せたその女性、佐倉弥生は


「藤堂さんじゃない、久しぶりだね。」


そう言って、すぐに不敵な笑みを浮かべた。


「こんな所でなにしてるの?」


「映画を見て、これからお夕飯でも食べに行こうと思って。」


「そう。で、その隣の男性はどちら様?」


「あなたには関係ないでしょ?」


にらみ合うように対峙する2人。そんな2人の様子に、通り掛かる人々は何事かと目を見張り、弥生の横の男性は、彼女に寄り添いながら、心配そうな表情を浮かべている。


「確かに直接は関係ないかもしれないけど、あなたの婚約者である大和の幼なじみとしては、黙って見過ごすわけにはいかないわ。」


「私には、もう婚約者なんかいないわ。大和くんとの婚約は解消した、藤堂さんは聞いてないの?」


「私が聞いてるのは、急に結婚出来ませんって、あなたが大和を一方的に突き放したきり、まともに話し合いにも応じないで、それ以降、話が進んでないってことだけ。」


「・・・。」


「ただの恋人同士が別れるのと、わけが違うんだよ。そんないい加減なことで、大和が納得出来るはずないし、婚約解消なんか出来るわけないでしょ?まさか、そんなことも本当にわからないの?」


憤然と言い募る七瀬を、弥生は冷ややかな視線で見返すだけ。そんな態度に、いよいよ頭に血が上り


「随分仲睦まじそうだけど、婚約解消の本当の理由は、そういうことだったって理解していいのね?」


男に寄り添ったままの弥生を睨み据えながら、七瀬は言う。


「いや、それは・・・。」


慌てたように口を挟もうとする男に


「実は私、以前あなたたち2人が、カフェで顔を寄せ合って、いかにもの雰囲気で会ってらっしゃるのお見掛けしたことがあるの。あれは、まだ佐倉さんが大和に別れを切り出す前だったよ。」


追い打ちを掛ける七瀬。実はあの時、相手の顔は見えてなかったが、この男で間違いないだろうと思っていた。
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