Restart~あなたが好きだから~
「そっか、それじゃもう誤魔化しようがないね。」


「弥生・・・。」


爽哉(そうや)は黙ってて。そうよ、この人と出会って、この人のことが好きになっちゃったの。だって、この人凄く男らしくて、頼りがいがあって。大和くんは確かに優しいけど、でもそれだけじゃない。彼氏としては、まぁ悪くはなかったけど、でも人生を共にするとなると、やっぱり、ね・・・。」


(10年付き合った婚約者はくん付けなのに、この男のことは呼び捨てなんだ・・・。)


全く悪びれた様子もなく、言い放った弥生を、信じられない思いで、七瀬は見つめる。


「10年付き合って、なんとなくレールに乗っちゃったみたいに流されて婚約したんだけど、早まったなぁって後悔してたんだ。実はこの人、お医者さんなの。将来を嘱望されてて、今度海外研修に行くんだよ。付いて来て欲しいって言ってもらったから、私、決心したんだ。」


「・・・。」


「本当のことを言ったら、大和くんが傷付くと思って、ああいう言い方をしたのに、まさかあんなにすがって来るなんて・・・そういうところも嫌なんだよね。」


「なに、上から目線で言ってるのよ。ただ大和のこと裏切って、それを胡麻化そうとしただけじゃない!」


あまりの弥生の言い草に、思わず拳を握りしめてしまった七瀬だったが、懸命に自分を抑えると


「あなた、佐倉さんに婚約者がいるって知ってて、口説いたの?」


今度は沈黙したままの男の方に問い掛ける。


「そ、それは・・・。」


口ごもる男を遮るように


「私から言い寄ったの。福地(ふくち)爽哉、イケメンでしょ?私の一目惚れだったんだぁ。」


そう言って弥生は、七瀬に見せつけるかのように、彼にまた身を寄せ、臆面なく笑う。


(この子、こんな性悪な女だったんだ・・・。)


さすがに言葉を失った七瀬だが


「最低だね、あなたたち。」


辛うじて、そう言ってやる。


「そうだね。それは認めるしかないかな、まぁこうやってバレちゃった以上はね。ということで、あなたから大和くんに現実を伝えてあげてよ。式場のキャンセル代はもちろん負担するし、婚約破棄の慰謝料もきちんと支払うから、早く私のことは諦めてって。」


そう答えた弥生の口調には、嘲りの響きがあった。
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