Restart~あなたが好きだから~
それからちょうど1週間後に行われた株主総会。各議案の会社側からの説明、そして、株主たちとの質疑応答の矢面に立ったのは氷室専務であった。彼がそう言った立場で総会に臨んだのは初めてであったが、終始落ち着いた態度と話しぶりで、株主たちに安心感と信頼感を与えたようで、氷室圭吾専務の副社長昇格を含めた人事案件を始めとした会社提案の決議事項は、無事承認された。


全てが終わり、控室に戻った氷室を


「お疲れ様でした。そして、改めまして副社長ご就任、おめでとうございます。」


七瀬は笑顔で出迎え、頭を下げた。


「ありがとう。どうだった、俺の対応は?」


「完璧だったと思います。」


「そうか?七瀬に褒めてもらうとなんか嬉しいな。でも、ウチもIT企業なんだから、そろそろバーチャル株主総会に切り替えた方がいいな。」


「そうかもしれません。」


大任を無事に終え、軽口をきく氷室に頷いて見せた七瀬が


「会社に戻ったら、すぐに社長室に来るようにと先ほど、社長秘書から連絡をもらいました。私も同席せよとのことでしたので、お供させていただきます。」


氷室に伝えると


「わかった。ま、今日くらいは親父も褒めてくれるのかな?じゃ、早速行こう。」


そう言ってご機嫌の表情のまま、部屋を出た。


果たして、社長室に現れた息子を


「今日はご苦労さん。」


と労った社長は


「まぁ座れ。」


氷室と七瀬に席を勧めると、自らも2人の前の席に座った。そして


「いいな圭吾、2年だからな。」


社長は切り出した。その言葉に、七瀬はハッと社長の顔を見る。


「2年後に俺は退任する、基本的には取締役会にも残らんつもりだ。」


「えっ?」


「完全に引退して、あとは好きなことをしながら、これまで苦労を掛けた妻への孝行に旅行三昧の生活を送らせてもらう。」


「父さん・・・。」


その言葉には、さすがに氷室も驚いたような表情で父を見る。


「その為に、圭吾。お前は2年後の総会が、今日のように穏やかに終了できるようにしろ。社内はもちろん、株主にも何も言わせないような実績を示せ。」


厳しい表情で続けた社長は


「藤堂さん。」


今度は七瀬に視線を向けた。
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