好きだなんてずっと言えるわけがなかった。
それから私の日常はめまぐるしいものになった。
軽く考えていたが、生徒会立候補者というのは意外と仕事がある。

私は忘れていた。これは選挙なのだから「演説」をしなければならないことを。


喋るのが苦手な私にとっては地獄以外の何者でもなかったし、何回も演説文章を先生に訂正されてメンタルはボコボコにされていた。

加えて、自分のことを宣伝しないといけないからポスターを描いたり昼の放送で挨拶をしたり……。

とにかく学校が少し嫌いになった。






「はあ……もうやめたい」



放課後先生と打ち合わせをするからという理由で教室に1人で残っていた。

手元にある演説文章を見て、また修正かなあとため息を吐く。


と、同時にドアがノックされた。
先生が来たかなと思って私は立ち上がりドアに向かう。



「は……い」


ガラッと扉を開けた先に立っていたのは先生じゃなかった。



「早見さんですか?」




知らない男の子が立っていた。
すらっと背が高く、健康的な肌色に黒い短髪。
端正な顔立ちからは感情が読み取れない。
学生服を着ているところを見ると、どうやら同じ生徒のようだ。




「あ……はい、早見です、けど」

「これ、生徒会の人から資料預かってる。多分選挙のことだろうから読んどいてって」

「え、ああ、ありがとうございます」




彼はそれだけ言うとさっさと歩いて言ってしまった。

え……一体誰。


と私が困惑して入口に立ち尽くしているところに先生がやってきて、私の様子を不思議そうにしている。

私はさっき出会った男の子のことを話した。




「ああ、多分清水君ね。彼よ、もう1人の立候補者」



先生はなんでもないようにそう言った。
え、つまり。






「戦う人……あの人ってこと?」






これが
私と彼の最初の出会いだった。
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