好きだなんてずっと言えるわけがなかった。
清水君と出会ってから、何故か彼をよく目にするようになった。
今まで存在を知らなかったのが不思議なほどに。

彼は一人でいることは少なく、基本誰かに囲まれていた。
初めて会ったときに私は彼からクールな印象を受けていたけれども、
実際はそうでもないようだ。


よく笑うし、友達も多いし、頭もいいことがわかった。

私とは、正反対だった。



彼に、勝てるわけなんかない。






「あ、まずい」


私は劣等感から持っていた演説で使う原稿をぐしゃっと握ってしまった。
少し皺になる。





「あ、早見さん」

「え、あ……」




廊下で立ち尽くしていると呼び止められた。
振り返ると今最も会いたくない人物、清水君がいた。

私は、合わせる顔がなくて俯いたまま返事をする。
彼は誰にでも分け隔てなく接する。それは私も例外ではなかった。

生徒会選挙の伝達を度々してくれるため、そこそこ話す仲にはなっていた。





「原稿できた?」

「ああ、うん。これでいいって」

「そっか。俺もオッケーもらったよ」

「よかったね……私部活行くから」

「あ、うん頑張ってな」






恥ずかしい。
自分がとてつもなく恥ずかしかった。
彼の真っすぐな瞳を見ることができなかった。
逃げるように美術室に籠り、まだ誰もきていなかったことに安堵する。
その場に入口を塞ぐようにして座り込んだ。

私は、自分の勝手な劣等感から彼が苦手になっていた。

明るくて、人気者で、頭もよくて。
私にはないものばかり持っているから。




言うまでもなく、私は選挙当日まで喪失感と虚無感に苛まれ、たいして演説もうまくできずに
敗北を期してしまうのだった。


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