成瀬課長はヒミツにしたい
 常務は白髪(はくはつ)の頭に手をやると、曲がっている腰をトントンと叩きながら大きく伸びをした。

 そして、人の()さそうな笑顔でゆっくりと真理子たちの顔を見る。


「さぁ、フロアに戻ろうか」

 常務の言葉に、三人は「え?!」と顔を見合わせた。

「ですが常務。今フロアに戻れば、水木さんは針の(むしろ)です」

 慌てた声を出す成瀬に、常務は小さく笑い声をあげた。


「珍しいね。成瀬くんが、そんな顔をするのは。よほど相性がいいパートナーなのかな」

 常務は真理子を見ると、そっとウインクする。

「えっ?! なんで、そのことを?!」

 真理子は驚いて、常務の顔を見つめたまま固まってしまう。

 常務は真理子にほほ笑みを向けたまま、口を開いた。


「専務の目的は私にもわからないんだよ。ただね、ここで社内を混乱させるわけにはいかない。分断させるわけにはいかないんだ」

 常務はそう言うと、ゆっくりとそれぞれの顔を眺める。
< 102 / 413 >

この作品をシェア

pagetop