成瀬課長はヒミツにしたい
 社長は秘書に軽く手を上げると、真理子に向き直った。

「ちょっと会合を抜け出してきちゃってね。真理子ちゃん。いつも乃菜から話は聞いているよ。本当に色々とありがとう。今度ゆっくり、今回のお詫びをさせてね」

 社長の爽やかな笑顔に、真理子はどぎまぎしながら両手を顔の前で振る。

「そんな、お詫びだなんて……。正直びっくりしましたけど。乃菜ちゃんのパパが、社長だったなんて……」

「そうだよね」

 あははと笑う社長の顔を見て、真理子はやっと納得する。


 ――あぁ、そうか。社長の笑顔は、乃菜ちゃんの笑顔と一緒だったんだ。


 社長は乃菜とそっくりな笑顔のまま、真理子に手を差し出した。

「改めて、澤井明彦(さわいあきひこ)です。澤井乃菜ともども、どうぞよろしくね」

「あ……」

 真理子は社長の手を取ろうとして、口をあんぐりと開ける。

「どうした?」

 成瀬が不思議そうな顔をした。

「そうだ。乃菜ちゃんの名前って“《《さわいのな》》”ちゃんでしたね……。全っ然、つながらなかった」
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