成瀬課長はヒミツにしたい
 真理子がふと見上げると、社長の瞳には今にも溢れそうなほどの涙が溜まっていた。

 しばらくして、静まり返っていたフロア内に、ぽつぽつと拍手が聞こえだした。

 そしてそれは、さっきよりも大きな拍手となって真理子たちを包み込んだ。


「よかった……」

 真理子はホッとした声を出し、隣の成瀬と社長の顔を見上げた。

 二人とも、ほほ笑みながら真理子を見つめている。


「さぁさぁ。みんな、業務に戻ろう……」

 すると常務が手を叩きながら声を出し、真理子もゆっくりと立ち上がった。

 ふと常務の顔を振り返ると、その頬には涙のすじがいくつも重なって見えていた。



 バンっと専務室の扉が大きく開かれた。

「あいつら! この私に盾突きおって」

 専務は足を鳴らしながら部屋に入ると、デスクの上にビラの束を叩きつける。


「おやおや。荒れてらっしゃいますねぇ」

 いやらしい目を向けながらそう言ったのは、橋本だった。

 橋本は、専務室のソファに深く腰掛けると、膝に手をついて上目遣いで専務を見上げる。
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