成瀬課長はヒミツにしたい
「思惑が外れましたねぇ。まさか、あんな下っ端社員に噛みつかれるとは……」

 嫌味ったらしく肩を揺らす橋本に、専務は「ふん」と鼻を鳴らした。

 そして、ジロリと鋭い視線を送る。

「お前が持ち込んだこの写真で、徐々に追い詰めようと思っていたが、手間が省けただけの話だ」

「と、言いますと?」

「子供の存在を知り、お涙頂戴で社長側につく奴もいるだろう。だが必ず、不満は募る。その(ほころ)びを突けばいいだけだ。あの若造……いつか必ず蹴落としてくれる」

 専務は手のひらに拳を突き立てた。


「おぉ。専務に睨まれたら、ひとたまりもありませんねぇ。それにしても元々、社長の椅子は専務に約束されたものでしたのに」

 専務は、橋本の言葉に顔を背けると、ドカッと椅子に腰を下ろした。

「まぁいいさ。次の手は考えてある……。お前にも、また動いてもらうぞ」

 腕を組みながら横目で目をやる専務に、橋本はにやついた顔でうなずいた。

「なんなりと……」
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