成瀬課長はヒミツにしたい
「つ、疲れた……」

 真理子は思わず、ぐったりとデスクに突っ伏す。


 今日は昼間の一件以降、まったく気が休まらなかった。

 ビラ騒動に加え、社長と専務の対立が浮き彫りになったことは、少なからず社内に動揺を与えている。

 ただそれ以上に、特に女性社員を動揺させたのは“噂のクール王子”が初めて見せた笑顔だったようだ。


 あれから真理子はどこかで誰かに会うたびに、家政婦の事や成瀬の事について何度も話しかけられた。


 ――と言っても、答えられることは、ほとんどないんだけどね。


 ため息をついた真理子が目線を上げると、壁に掛かった時計はとっくに定時を回っている。


 ――今日はマンションに来なくて大丈夫って言われたけど……。あんな事があった後だから、帰りに寄ってみよう。


 真理子は人がまばらになったフロアで、一旦伸びをするとパソコンに向かい手早く仕事を片付けた。
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