成瀬課長はヒミツにしたい
 一人残された卓也は、デスクの上で小さく拳を握りしめる。

「成瀬課長も社長も……なんで、真理子さんなんだよ。……誰にも気がついて欲しくなかったのに。あの人の事、誰にも見せたくなかったのに」

 卓也はそうつぶやくと、真理子のデスクに置いてある王冠を、じっと見つめた。


「もう、卓也くんってば、何なのよ……」

 マンションに向かう歩道を歩きながら、真理子はまだ痛みの残る右手にそっと触れる。

 今まで卓也にはずっと、からかわれているだけだと思っていた。

 それなのに、真理子を『行かせたくない』と言った時の卓也の瞳は、余裕がない程に真剣だった。


「卓也くんの手、柊馬さんと全然違った……」

 真理子は、今までに何度も強引に触れられた、成瀬の大きな手を思い出す。

 卓也に抱きしめられて改めて気がついた。

「やっぱり……私は柊馬さんがいいんだ……」

 真理子は、はやる気持ちを抑えつけるように、マンションのインターホンを鳴らした。
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