成瀬課長はヒミツにしたい
「先代が亡くなって、明彦がサワイに社長として戻ることが決まった時は、相当の覚悟が必要だった。当初から専務をはじめ、反発している人間は多かったしな。乃菜の存在を知られることで、付け入る隙を与えたくなかったんだろう」

「だから、柊馬さんがサポートを? 社長が安心して、仕事に専念できるようにって」

「まあな。それに……」


 ――約束だったから。


 成瀬はそう言いかけて、一旦口をつぐむ。

 まっすぐに自分を見つめる真理子を見ながら、昼間の明彦の言葉が成瀬の脳裏を横切った。


「どうしたんですか?」

 首を傾げる真理子に、成瀬は慌てて目線を逸らす。

「あ、いや。それより、お前は? あの後大丈夫だったか?」

 成瀬は、取り繕うようにカップに手を伸ばした。

「もう大変だったんですから!」

「え?! 何があったんだ?!」

 驚いて身を乗り出す成瀬に、真理子は子供のように口を尖らせた。
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