成瀬課長はヒミツにしたい
 真理子は乃菜の様子にほほ笑んだ後、ゆっくりと目線を戻した。

 そして、成瀬の表情にはっと小さく息をのむ。

「柊馬さん……?」


 成瀬は乃菜に顔を向けたまま、何かを考えるようにぼんやりとしている。

 その瞳を見た瞬間、真理子の心の中がざわざわと波打ちだす。

 成瀬の瞳はあの夜のように、何とも言えず憂いを含んでいた。


「そう言えば、前にも似たようなことを言われたな……」

「え……?」

「……佳菜に」

 成瀬が静かに口にした知らない女性の名前に、真理子の胸はズキンズキンと痛み出す。


「……佳菜さんって? もしかして、乃菜ちゃんの……?」

 真理子は、震えるように小さな声を出した。

 成瀬は優しい顔でうなずくと、小さく口元を引き上げる。


「乃菜の母親の佳菜は、明彦と俺の幼馴染だったんだ」

 成瀬が愛しそうに呼ぶ女性の名前に、真理子は胸をぎゅっと掴まれたように息苦しくなった。
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