成瀬課長はヒミツにしたい
「佳菜はずっと明彦の事が好きでさ。でも明彦は社交的で明るい性格だから、クラスでも人気があったし、いつも女の子に囲まれてて。あいつ、それ見てよく泣いてたな」

 成瀬は昔を懐かしむように、窓の方に目をやると真っ暗な夜空をぼんやりと見つめる。

「二人が付き合いだしたのは、大学生になった頃で。やっと落ち着いたかと、ほっとしたのを覚えてるよ」

 真理子は、成瀬が穏やかに話す声を、うつむいてじっと聞いていた。


「卒業して、そのまま明彦と俺はサワイに入社した。当初先代は、明彦に会社を継がせようと思ってたんだろう。身体の弱い佳菜と付き合うことを反対するようになって、明彦に別れるよう迫っていた。そんな時、佳菜の妊娠がわかったんだ」

「え……」

 真理子は思わず顔を上げる。

「佳菜は、明彦の将来を考えて、明彦には内緒で一人で産むって言った。でも、身体の弱い自分が一人で育てきれるんだろうかって。不安に押しつぶされそうな顔で、震えてたよ」
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