成瀬課長はヒミツにしたい
 成瀬は窓から目を離すと、まっすぐ真理子に顔を向けた。

「だから言ったんだ。何かあれば、お前と明彦の子供は、俺が全力で守ってやるって。だから何も心配せずに、明彦に真実を話してぶつかって来いって」


 ――あぁ、それが“昔の約束”なんだ。柊馬さんはきっと、赤ちゃんだけじゃなく、佳菜さんの事も全力で守るって、言いたかったんだ。


 真理子は、あまりに深い成瀬の想いを知り、打ちひしがれる思いだった。


「そして明彦は、すべてを捨てて佳菜と生まれてくる子供を選んだ」

「……だから、社長は家を出たんですか?」

 成瀬は優しくほほ笑む。


「佳菜はよく泣いてたけど、あの時期が一番幸せそうだったな。でも……過度の心労と出産は、佳菜の身体には負担が大きすぎたんだ……」

 額に手を当ててうつむく成瀬に、真理子は何と声を掛けたらいいのかわからなかった。


「佳菜さん、見たかったでしょうね……。乃菜ちゃんの笑顔」
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