成瀬課長はヒミツにしたい
 ――もしかして、大変な秘密を知っちゃったんじゃないの?!


 ジーッと機械音が聞こえ、コーヒーが糸を引くようにゆっくりと注がれていく。

 その様子をぼんやり見つめていると、廊下で歩きながら話している女性社員の声が聞こえてきた。


「成瀬課長ってさぁ、常務の娘とお見合いするって、噂があるんだって」

「うっそー。ショックー」


 ――え……?!


 真理子はビクッとして、思わず取り上げたカップから、コーヒーを手にこぼしてしまう。

「あちち……」

 慌てて水道の蛇口をひねりながら、ふと首を傾げた。


「……常務の娘とお見合い? 子供がいるのに?」

「誰がですか?」

「だから、成瀬課長が……」

 そう言いながら振り返った真理子の顔から、サッと血の気が引いていく。

 給湯室の入り口に立っていたのは、まぎれもなく成瀬課長ご本人だった。
< 14 / 413 >

この作品をシェア

pagetop