成瀬課長はヒミツにしたい
 バタンと閉じたドアの前で、成瀬は立ち尽くしていた。

 真理子が駆けて行ったであろう足音は、もうだいぶ前に聞こえなくなっていた。

 成瀬は小さく息をつくと、静かにリビングへと戻る。


「乃菜?」

 すると乃菜が、ゆっくりと成瀬の近くへと寄って来た。

「どうしたんだ? そろそろ寝る支度でもするか」

 そう言いながら、ダイニングテーブルのカップに手をかけた成瀬の腕を、乃菜が力強くぐっと引く。


「とうたん」

 いつになく真剣な表情の乃菜に、成瀬は首を傾げた。

「とうたんは、まりこちゃんのことがすきなの?」

「え……?」

 乃菜の言葉に、成瀬は目を開いて一瞬たじろぐ。

 乃菜はそれを見透かすかのように、大人びた顔をした。


「のなはね。まりこちゃんに、ママになってほしいの。だから……」

 乃菜は成瀬の目をまっすぐに見上げた。


「だから、とうたんには、あげないよ」
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