成瀬課長はヒミツにしたい
「え……?」

 真理子は思わず、卓也の顔を振り返る。

「いえ……もう、帰ります」

 卓也は取り繕うように小さく答えると、手早くパソコンをシャットダウンした。

 卓也も気まずさを感じているのだろうか?

 いつものような明るい雰囲気は、完全になりを潜めている。

 真理子が遠慮がちに様子を伺っていると、卓也はその視線から逃れるように急いで席を立った。


「昨日はすみませんでした。冗談がすぎました」

 真理子にそれだけ告げると、卓也はタイムカードのある方へ足早に向かった。

「え……?」

 真理子は眉をひそめながら、フロアを出ていく卓也の背中を見送る。


「全然、冗談って顔じゃないけど……」

 いつになく深刻そうな表情で出ていく卓也の姿を見送りながら、真理子は頭をふるふると横に何度も振った。

 昨日から、一度に色んなことが起こりすぎて、心がついていかない。


 ――まぁ……失恋のショックが一番大きいけど。


 真理子は腫れぼったい瞼を押さえながら、深くため息をついた。
< 147 / 413 >

この作品をシェア

pagetop