成瀬課長はヒミツにしたい
「これで作業できるかな。急ぎで悪いけど、真理子ちゃんだけが頼りなんだ」

「はい。すぐに調べます……」

 社長に顔を覗き込まれ、真理子は慌ててうつむく様に答えた。

 成瀬はそんな二人の様子を、さっきから静かに見ている。


 ――なんか、今日の社長、距離感が近いよね……? 柊馬さんも見てるのに。


 成瀬の視線に気まずさを感じていると、社長がさらに真理子の耳元に顔を近づけた。


「そうそう。家族ごっこの返事、待ってるからね」

「え……?」

 にっこりとほほ笑む社長を、真理子は目を丸くして見上げる。


「じゃあ、よろしくお願いね」

 社長は真理子の肩をポンポンと叩くと、デスクから離れて行った。

 真理子は社長の背中をじっと見送る。


 ――やっぱり、社長は本気ってこと……?


 真理子は、複雑な気持ちのまま目線を画面に戻すと、頬をパンパンと両手で叩く。

「とにかく今は、こっちに集中集中!」

 真理子はそうつぶやくと、マウスをぐっと握りしめた。
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