成瀬課長はヒミツにしたい
「ねえ、柊馬。ライバルだけど、親友として一つだけ教えてあげようか」

 明彦は悪戯っぽく笑うと、人差し指をピンと口の前に立てた。


「どうも真理子ちゃんは、勝手にお前に失恋したと思ってるらしいんだよね」

「ん? どういう事だよ」

 予想もしなかった明彦の話に、柊馬は思わず聞き返す。


「さぁね。柊馬が無自覚に、真理子ちゃんを振っちゃったんじゃないの?」

 明彦は飄々(ひょうひょう)とした顔でそう言うと、楽しそうに肩を揺らした。

「振るって……なんだよ。じゃあ、真理子は俺の事……。その、好きだって言うのか……?」

 柊馬は口元に手を当てると、珍しく動揺した様子を見せる。


「さぁね。はっきり、柊馬の名前を聞いた訳じゃないよ。ただつい最近、失恋したってのは本当」

 明彦はチラッと横目で柊馬に目をやった。

「だったら、相手が俺かはわからないだろ。それに、俺はそんな事、一言も……」

 柊馬はそう言いながら、あの日の真理子の様子を思い出す。
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