成瀬課長はヒミツにしたい
 あの夜、真理子は柊馬の話を聞くことなく、マンションを飛び出して行った。


 ――そう言えば、飛び出す瞬間、真理子は泣いてた……。


 もしかして、真理子が社長室に入って来た時、柊馬の顔を見て気まずそうに目を逸らしたのは、そのせいだったのか。


「ふーん。心当たりあるんだね」

「ち、違う……」

 腕を組んで見つめる明彦に、柊馬は慌てて首を振る。

「珍しいね。柊馬が慌てるなんて。じゃあ聞くけどさ。柊馬は真理子ちゃんのこと、どう思ってるの?」

 目を開いて固まる柊馬を、明彦が鋭く見据えた。

「それは……」

 柊馬は言葉に詰まって、口を閉ざす。


「ま、当然言わないよね。柊馬は昔から、自分の事は秘密にするもんね」

 明彦は小さくため息をついた。

「柊馬が真理子ちゃんのことを、どう思っているのか。当然、本当の気持ちは知らないよ。でもね……」

「でも?」

「俺は、そこに付け入らせてもらうよ」

 明彦の言葉に、柊馬の瞳が小さく揺れる。
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