成瀬課長はヒミツにしたい
「それは……どういう」

 柊馬の戸惑った言葉を遮るように、明彦が口を開く。

「ごめんね。柊馬。乃菜が望んでるんだ」


 乃菜の名前を聞いた途端、柊馬の身体はぴたりと動かなくなった。


 『のなはね。まりこちゃんにママになってほしいの』


 柊馬の脳裏に、あの日の乃菜の言葉が何度も繰り返される。


「乃菜のためを思ってくれるなら、真理子ちゃんの事は、このままそっとしておいてくれないかな」

 静かな部屋に明彦の声が響く。

 柊馬は静かに目を閉じた。


 自分は今まで、乃菜の幸せを願って過ごしてきた。

 家政婦として、乃菜と明彦の生活を一番近くで支えてきた。


 ――それが、佳菜との約束だったから……。


 柊馬はゆっくりと目を開けると、作業を進める真理子の姿に目を向ける。


 しばらくして、柊馬はゆっくりと明彦を見つめた。

「……わかった」

 柊馬の低い声は、まるでガラス張りの壁に吸い込まれるように、静かに消えていった。
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