成瀬課長はヒミツにしたい
 社長は真理子の顔をじっと見つめている。

「こういう時ね。乃菜は、絶対にわがまま言わないんだよね」

「乃菜ちゃんは、頑張り屋さんですもん……」

 真理子は社長の視線にドギマギし、再び手を動かしながら声を出した。


「乃菜はさ、俺には欲しい物だって滅多に言わない。だから珍しいんだ……」

「え?」

 真理子は、社長がなにを言おうとしているのかわからない。


 真理子がそっと顔を上げると、社長は真理子ではなく、成瀬の横顔をじっと見つめていた。

「乃菜が初めてはっきり俺に、欲しいって言ったんだ……」

 社長の言葉は聞こえているはずだ。

 それでも成瀬は、手元の資料に目線を落としたまま、何も言わなかった。


 それからしばらくして、真理子はパソコンのセッティングを終わらせた。

「もう一度、データ抽出のログの確認からだ」

 成瀬の低い声が響き、真理子は緊張気味にうなずいた。
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