成瀬課長はヒミツにしたい
 その頃専務室には、上機嫌な専務の顔と、ニヤつく橋本の顔があった。

「会見は、三日後に決まったようですね」

 専務は「ふん」と鼻を鳴らすと、椅子にふんぞり返りゆっくりと顎を撫でた。

「あの若造への、せめてもの花向けだ。豪華な会場を用意してやったさ」

「まったく専務はお優しいんですから。それはそうと……」

 橋本が辺りを気にしたのち、声をひそめる。

「新聞社にも書き込みがあったとか……」

 心配そうな声を出す橋本を一瞥すると、専務は再び鼻を鳴らす。

「どうせ掲示板を見た誰かが、不安になって通報したようなもんだろう。気にするな」

 橋本はほっと胸を撫で下ろすと、遠慮がちに専務を上目遣いで見つめる。

「ところで専務……。約束はお忘れでないですよね……?」

「約束? お前を生産工場から、本社へ戻すアレか?」

「そうです、そうです。もう工場勤務はこりごりで……。土地柄、冬は寒いですし」

 橋本の声に、専務はガハハと笑い声を立てる。

「もう少しの辛抱だわい」

 二人の笑い声は、部屋の外にまで響き渡っていた。
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