成瀬課長はヒミツにしたい
「真理子。動揺している暇はない。すぐに外出するぞ。少し遠いから、覚悟しとけ」

 成瀬は淡々と扉を指さしながらそう言うと、真理子の頭に大きな手を置いた。

「え……」

 真理子は思わず成瀬の顔を見上げる。

 ぽんぽんと頭に触れる手の平から、成瀬のぬくもりが伝わって来た。

 真理子はその温かさに、次第に落ち着きを取り戻す。


 ――いつだってそうだ。柊馬さんの言葉は、ちょっと強引で飾り気がないけど、本当は私を気づかってくれている。


 真理子は顔を上げると、成瀬に向かって大きくうなずいた。


 正直まだ頭の中は、全く整理ができていない。

 それでも、自分たちに会社を託すと言った社長の覚悟に向き合うためにも、今できる最大限の事をしよう。

 真理子は引き出しから鞄を引っ張り出すと、ぐっと手に力を込める。

 そして、社長室を出ていく成瀬の背中を追って駆けだした。
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