成瀬課長はヒミツにしたい
「だってさぁ、成瀬さんって、いっさい笑わないでしょう? そりゃ、ここに来た時はみんなに気を使って、柔らかい表情してるみたいだけどさ。いつも気が張ってるっていうかね」

 そう言いながら、田中さんは首をすくめる。

「まぁ、なんとなくわかります……」

 真理子の頭に“クール王子”と呼ばれていた成瀬の顔が浮かんだ。


「成瀬さんはさぁ、いい男だし仕事もできる。でもあの眼鏡の奥の瞳が、あんなに笑ってるのは、今まで一度だって見たことないよ。だから、あんたは特別なんじゃないかって、思ったんだけどねぇ」

「……特別?」


 真理子は前に、乃菜から同じようなことを言われたことがあったと思い出す。


 ――でも結局、特別なのは私じゃなかった……。


 田中さんはもう一度、真理子の顔をじっと覗き込んだ。

「ちょっと、待っといで」

 そして田中さんは片手をあげると、事務所の外にすたすたと歩いて行く。
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