成瀬課長はヒミツにしたい
 真理子たちが工場を出た時は、外はもう真っ暗になっていた。

 さっきから成瀬は考え事をしているのか、ずっと黙ったままだ。

 寒々とした駅のホームには誰も立っていない。

 しばらくして時刻表通りに到着した電車に、真理子は成瀬の後を追うように乗り込んだ。


 四人がけのボックスシートに、成瀬と二人、隣同士に座る。

 成瀬のスーツの肩が髪に触れ、真理子はドキッとして下を向いた。

 電車はゆっくりと発車し、スピードが上がったカーブで、真理子は思わず成瀬に寄りかかってしまう。

 それでも口を開かない成瀬を、真理子は首を傾げながらそっと見上げる。


「電話で、何かあったんですか……?」

 真理子は上ずる声を隠すように声を出した。

「……橋本が、姿をくらました」

「え……」

 真理子は予想もしなかった話に、驚いて目を見開く。

 真理子たちがここに来る前は、我が物顔で本社を闊歩(かっぽ)していたはずだ。

 それがまさか、この短時間で姿を消したとは。
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