成瀬課長はヒミツにしたい
 耳元でささやく成瀬の吐息がくすぐったかったのか、真理子が目を閉じたまま、ふふっと笑った。

「前にもこんな事があったな。お前は、本当に面白いよ……」

 成瀬は真理子の肩に手を回すと、そのままぎゅっと真理子の身体を両手で抱き寄せる。


『どうも真理子ちゃんは、勝手にお前に失恋したと思ってるらしいんだよね』

 明彦の言葉が頭をよぎり、成瀬は強く目を閉じた。


 ――そのまま気がつかなければいい。明日の会見が終われば、明彦の立場は必ず悪くなる。あいつと乃菜の側にいて、支えられるのは真理子だけだ。


 ふと真理子の鞄から、田中さんにもらったステッキが覗いている。

 ステッキのスイッチは押されたままだったのか、色とりどりのライトが光っていた。


 成瀬はぐっと、真理子を抱きしめる手に力を入れた。

「真理子だけだったよ。俺が笑顔になれたのは……」

 成瀬はそうつぶやくと、真理子の髪に顔をうずめるように、優しく頬にキスをした。
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