成瀬課長はヒミツにしたい
 その様子を見て、社長は楽しそうに肩を揺らした。

「こんな花道を用意されたら、引退せざるを得なくなっちゃうよね」

 おどける社長を成瀬が睨みつけた時、扉をノックする音が響いた。

 その瞬間、その場にいた全員が、はっとして扉を振り返る。


「社長、そろそろお時間が……」

 扉から遠慮がちに顔を出したのは、秘書の男性だった。

 その顔を見た途端、小さなため息が室内に漏れる。

 秘書はみんなのがっかりした様子を見て、慌てて顔を引っ込めた。


「彼は、もう来ないようだね……」

 常務の諦めたような声が聞こえ、真理子は自分のスマートフォンを握りしめる。


 真理子のスマートフォンに、卓也からメッセージが入ったのは、昨夜遅い時間だった。

 “明日、事実を話します”

 真理子は、その言葉を信じた。

 でも、卓也は現れなかった。


「じゃあ、ちょっと行ってくるね。ちゃんと中継見ててよね」

 明るくそう言いながら片手を上げる社長に、真理子は泣きそうな顔を向ける。
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