成瀬課長はヒミツにしたい
 バタンと扉の閉まる音が聞こえる。

「どうして……」

 真理子はスマートフォンを握りしめた両手を、額に当てながらうつむいた。


 常務が「よいしょ」と、声を出して重い腰を上げる。

「私は社員のみんなと一緒に、中継を見てくるよ。社長の誇らしい姿を、ちゃんと先代にお伝えしなきゃいかんからね」

「……常務」

 真理子はいつもよりも小さく見える、常務の背中を見送った。


 成瀬と二人、音のない部屋で固まったように画面を見つめる。

 途方もなく、長い時間が過ぎたような感覚が真理子を襲っていた。


 その時、廊下で足音が聞こえた気がして、真理子は扉を振り返る。

「どうした?」

 思わず立ち上がる真理子を、成瀬が見上げた。

「今、足音が聞こえた気がして……」

 真理子は走って入り口に向かうと、勢いよく扉を開ける。

 今にも崩れそうな姿で、扉の前に立ち尽くしていたのは卓也だった。
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