成瀬課長はヒミツにしたい
 卓也はソファに腰かけ、頭を垂れるようにうつむいている。

 膝の前で握った両手が、小さく震えていた。

 真理子は言葉を失い、ただ固まって正面に座る卓也の様子を目で追った。


「お前……今、何て言った……?」

 しばらくして、成瀬が自分の思考を整理するように、片手を額に当てると、ゆっくりと口を開いた。

 その声に、卓也は静かに顔を上げると、まっすぐに成瀬を見つめる。

 その瞳には、もう迷いの色はなかった。


「それが……事実……?」

 真理子は茫然としながら、思わず両手を口元に当てた。

 今、目の前で聞いた話を、まだうまく処理できていない。


「真理子……」

 突然、成瀬に名前を呼ばれ、真理子ははっとして我に返る。

「今すぐ……会見会場に走れ!」

 成瀬は卓也を見つめたまま、まっすぐに腕を伸ばし扉を指さした。

「は……はいっ」

 真理子は叫ぶと、(せき)を切ったように扉を押し開けて、会場に向かって走り出した。
< 228 / 413 >

この作品をシェア

pagetop