成瀬課長はヒミツにしたい
 真理子は後ろでその様子を見ながら、ふとシステム部の席を確認する。

 卓也の姿はどこにも見えない。


「……佐伯は」

 真理子が社内を見回す様子に気がついた成瀬が、小さく声を出した。

 真理子が見上げると、成瀬はいつになく厳しい表情を浮かべる。


「佐伯は、辞表を提出した」

「え……」

 その言葉に、真理子は一瞬頭が真っ白になる。

「あれだけの騒ぎだ、辞表は受理されるだろう……」

 成瀬はあくまで感情をはさまないよう、淡々と声を出す。


「そんな……。確かに卓也くんは騒動に関わっていました。でも、卓也くんが証拠を残したおかげで、解決できたことなのに……」

 真理子は震える両手を、ぐっと握りしめながら下を向く。

「そうだな。お前の気持ちはよくわかるよ。でも、理由はどうあれ、やってはいけないことをした。それを、佐伯自身もわかってたんだよ」

 成瀬はそう言うと、真理子の肩に手をかけ、そのままフロアを後にした。



 それからしばらくして、騒動を引き起こしたとして、専務と橋本の退職が発表された。

 そして二人とは別に、卓也が自己都合で退職したことが、ひっそりと記載されていた。
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