成瀬課長はヒミツにしたい
 真理子は社長秘書になってからというもの、慣れない仕事に追われ、バタバタと毎日をすごしている。

 成瀬の姿も社内では、ほとんど見かけていない。

 そしてあの日以降、真理子の気持ちへ扉を閉ざすように、成瀬が家政婦としてマンションに来ることはなくなった。


「別に、わかってたことじゃない……。今更傷ついたって、しょうがない」

 真理子は、社長室へと続く絨毯の敷かれた廊下を歩きながら、ぽつりと声を出す。

「最初から、私には敵わなかったんだもん。ただそれだけのことだよ……」

 真理子は社長室の扉を押し開けると、資料を社長のデスクの上に置いた。

 今日の社長は、私用でどこかに寄ってから出社すると聞いている。


 真理子は一旦ブラインドを上げると、朝日が差し込む中で日課となっている清掃を始めた。

 他のフロアには清掃業者が入っているが、社長室の清掃だけは、もうずっと秘書の仕事だそうだ。
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