成瀬課長はヒミツにしたい
 真理子がデスク周りを整理していると、ふと脇に置いてある写真たてが目に入った。

 それは夏祭りの日の乃菜の写真。

 浴衣姿の乃菜の頭には、あの王冠のおもちゃがちょこんと乗っている。

 真理子は写真たてを覗き込むと、ふふっと思い出し笑いを浮かべた。


 最近の乃菜は、真理子が家政婦に行くと、終始真理子にべったりだ。

 そんな乃菜の様子に、社長はいつも口をとがらせる。

「おいおい、乃菜。パパの所にも来てよ」

「いや! まりこちゃんが、いいの!」

「パパも、たまには真理子ちゃんの隣に行きたいなぁ」

「だーめ! パパはワインでも、のんでなさい」


 最近特に大人びた発言をするようになった乃菜の姿に、真理子は社長と一緒に目を丸くしては大笑いをした。

 そしてその度に、真理子の心は救われていくようだった。


 今だったらわかる。

 成瀬が『明彦と乃菜の事を一番近くで、支えてやってくれないか』と言った言葉の意味が。
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