成瀬課長はヒミツにしたい
 柊馬がエレベーターホールに出た時、向かいからエントランスを歩いてくる姿が見えた。

「柊馬! 今日は外出?」

 明彦は片手を上げながら、爽やかな笑顔を見せている。

「あぁ。今日は工場まで行ってくる。橋本の件の経緯も、電話報告だけだったしな」

「そっかぁ。俺もそろそろ行きたいと思ってたんだよね。みんなによろしく伝えておいてよ」

 柊馬は軽くうなずくと、ふと明彦が手に持っている資料が目に入った。

 どうも有名なジュエリーブランドの、パンフレットのようだ。


「お前は? 今、出勤なのか?」

「そう。ちょっと私用で遅くなってね」

 照れたように口ごもる明彦の顔を、柊馬は伺うように見つめる。


 しばらく沈黙が流れ、柊馬は静かに目線を逸らした。

「じゃあ、行ってくる……」

 サッとその場を去ろうとした柊馬の肩に、明彦が手をかけた。


「ねえ、柊馬。知ってる?」

 不思議そうな顔をする柊馬の耳元で、明彦は口元を引き上げた。
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