成瀬課長はヒミツにしたい
「これじゃあ“クール王子”の名が泣くな……」

 成瀬は笑いながらつぶやくと、目元に手を当てた。


 工場はいつものように、大きな機械音が鳴り響く中で、作業着姿の従業員が活気良く行き来している。

「成瀬さん、いらっしゃい」

 成瀬が一歩中に入ると、いち早くその姿を見つけた田中さんが声をかけた。


 田中さんは「よいしょ」と、腰に手を当てながら立ち上がると、ゆっくりと歩いて来る。

「この前は大変だったねぇ。まさか橋本さんが、あんな大それたことを、計画してたなんてねぇ」

 田中さんは、信じられないという顔つきで大きくため息をついた。

「無事に解決できたのは、皆さんのおかげです。社長もそう思ってますよ」


 成瀬の声に満足そうにうなずくと、ふと田中さんが顔を上げる。

 そして意味深な顔つきで、口元を隠すようにそっと成瀬に近寄った。
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