成瀬課長はヒミツにしたい
「あの子に、これをあげたんだよ。ほんの少し、背中を押して欲しいんだろうと、思ったからね」

 田中さんは成瀬の顔を下から覗き込む。

「成瀬さんだって、気がついてたんだろう? あの子の気持ち」

「それは……」

 成瀬は口ごもると、そっとステッキに目線を落とす。


 キラキラと光るステッキは、本当に魔法のステッキのようだ。

 そのハートの形を見ながら、成瀬はどこかで似た形を見たことがある事に気がつく。


 ――真理子が、カレンダーに書いていた絵……?


 成瀬は、あの日の記憶を懸命にたどった。


『夢が叶いますように……』


 真理子の声が、聞こえた気がした。


 ――そうだ。真理子がステッキを書いていた日付は……。


 はっと顔を上げた成瀬の目の前に、田中さんの丸い顔が近づいた。


「成瀬さん、いい男なのに。ほんっとに、もったいないねぇ」

 田中さんは、これ見よがしにため息をつく。
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