成瀬課長はヒミツにしたい
 真理子が働くサワイライト株式会社は、イルミネーションライトを製造販売する会社だ。

 元々はお祭りや夜店で売られている、電飾の玩具を作る会社だったが、先代社長の急逝を受けて後を継いだ現社長が、イルミネーションライトの会社へと方向転換した。

 今でも電飾の玩具は製造しているが、その割合は年々減少傾向にある。


「これ、気に入ってたんだよね……」

 真理子はデスクに置いている、電飾のおもちゃを手に取る。


 プラスチック製のそれは、王冠の形をしていて、ボタンを押すと真ん中のライトが赤・黄・緑と点滅して光るもので、30年程前からサワイライトが作っている人気商品だ。

 底にはクリップがついていて、子供でも簡単に髪に飾ることができ、真理子が子供の頃からずっと大切にしているものだ。

 夜祭りの時、ピカピカと光るこの王冠をつけて歩くと、自分が特別な存在になったみたいで嬉しかった。


「あ、それ……」

 卓也が何か言おうと声を出した時、「新チームメンバーの人、打ち合わせ始めます」という声がフロア内に響く。

 真理子は慌てておもちゃをデスクに置くと、卓也と共に会議室に向かった。
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