成瀬課長はヒミツにしたい
　バタンと扉が閉じる音が響き、明彦が急に真面目な顔で柊馬を振り返った。

「この間久しぶりに、乃菜と佳菜のお墓参りに行ってきたよ。その時にね、佳菜の事、乃菜にいっぱい話をしたんだ」

　明彦の声色はすがすがしい。

　柊馬はその様子に安心したように、小さくうなずいた。


「俺は真理子ちゃんに、佳菜の姿を重ねてたんだろうね。そんな気持ちで、柊馬に勝てるわけないよな……。ごめん」

　明彦は小さく声を出すと、静かに下を向いた。

　柊馬には、明彦がその理由だけで、真理子に好意を寄せていたわけではないことはわかっていた。


　――乃菜の事だけじゃない、本当は真理子自身にも惹かれてたはずだ。


　それでも二人の事を想って、その気持ちに蓋をしてくれたのだ。


「乃菜は、大丈夫なのか？　その……母親が欲しいって言ってたこと」

　口ごもった柊馬に、明彦はにっこりと笑顔を見せる。

「そりゃ寂しいだろうけどさ。それ以上に、真理子ちゃんに笑顔になって欲しかったんだと思うよ。柊馬の隣で、にこにこ楽しそうにしてる真理子ちゃんにね」


　明彦はそう言うと、くるりと椅子を回して、何かを思い出すように窓の外に目をやった。
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