成瀬課長はヒミツにしたい
「うちの母親の得意料理なんだ。『成瀬の味を受け継ぐべし』とか、大袈裟に言ってたな」

 少し照れくさそうに話す成瀬に、真理子はたまらずキュンとする。

 真理子は今まで、成瀬の実家の話は、一度も聞いたことがない。

 また一歩、成瀬に近づけたようで、嬉しくてたまらなかった。


 すると成瀬が、そっと真理子の耳元に顔を寄せる。

「真理子にも、作り方を教えとかないとな。いずれ、真理子が受け継いでくれるんだろ?」

 甘い吐息が耳をくすぐり、真理子は反射的に、顔を真っ赤にして後ろにのけ反る。


 ――そ、それって……。そういう意味……?!


 そんなことを言われたら、卒倒してしまいそうだ。


「まりこちゃん、おかお、まっかっかー」

 乃菜が、にまにまと笑いながら、真理子と成瀬の周りを飛び跳ねた。

「ちょ、ちょっと! 乃菜ちゃん」

「おっ! タコみたいだな」

 成瀬が、さらに顔を真っ赤にする真理子の頬を、ぎゅっと掴んだ。

「もう! 柊馬さんまで……」

 楽しい笑い声が響く中、穏やかな夜は更けていった。
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