成瀬課長はヒミツにしたい

小さな亀裂

　真理子は役員専用の会議室に入ると、空調と電気のスイッチを入れた。

　誰もいない無機質な空間は、いつにも増して緊張感がある。


　今日は午後から役員会議が行われるため、真理子は小宮山と一緒に朝からバタバタと準備に追われていた。

　今回の招集の理由や議題は知らされておらず、資料もすべて社長が準備しているようだった。

　真理子はノートパソコンの電源を入れると、プロジェクターの映りをチェックする。

　「よし」と小さくうなずくと、小宮山を振り返った。


「私、お茶の準備してきます」

「よろしく」

　小宮山は、パソコン画面を覗き込んだまま、片手を上げた。

　真理子は廊下を進むと、社長室専用の給湯室に向かう。


「この時期に役員会議って珍しいよね？　大きな商談がまとまったから、そのことなのかなぁ？」

　真理子は急須に茶葉を入れながら首を傾げた。
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