成瀬課長はヒミツにしたい
「し、失礼しました……」

　真理子は動揺を隠せないまま、慌てて布巾で机を拭う。


　――電飾玩具事業から、撤退……？


　真理子は、ドキドキと鼓動が早くなるのを感じながら、布巾を持つ手を見つめる。


　社長は真理子に、王冠のおもちゃが作られた経緯を教えてくれた。

　そして乃菜がおもちゃをつけて、はしゃぐ姿にドキッとさせられたと言っていた。

　先代の想いがこもった、サワイライトの原点である電飾玩具を、社長も大切な財産だと思っている。

　そう信じていた。


　――それなのに……。撤退するっていうの？


　真理子はそっと、社長の対角線に座る成瀬の顔を見つめる。

　成瀬は真理子の視線に気がつくと、表情を変えないまま小さく首を横に振った。


　――この話は、柊馬さんも知らなかったんだ……。


　すると、じっと腕を組んで話を聞いていた常務が、静かに手を上げる。

「ひとつ、いいですかな」

　ざわめき出した会議室は、常務の穏やかな声に一旦静かになった。
< 305 / 413 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop