成瀬課長はヒミツにしたい
 社長はぐるりと周りを見回した。

「考えている余裕はないんですよ。今この時に決断して、動くべきだ」

 社長の声が響き渡り、圧倒されたようにみんなは社長を見つめている。


 常務が静かに席を立った。

「社長のお気持ちはわかりました。ただ、電飾玩具はサワイの起源ともいえる大切なものです。私は少しだけ、気持ちを整理する時間が欲しいのですが。皆さんはいかがですか?」

 常務の声に、ちらほらと賛同する雰囲気が伝わってくる。

「わかりました」

 社長は大きく息を吐くように言うと、パソコンの画面を閉じた。


 会議室の扉が開き、ぽつぽつと人が出ていく。

「社長。そろそろ次の打ち合わせに行く時間ですが」

 小宮山の声に促され、社長が席を立った。


 社長は部屋を出る前に立ち止まると、呆然と立ち尽くす真理子と静かに佇む成瀬を振り返る。

 そしてそのまま、何も言わずに部屋を後にした。
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