成瀬課長はヒミツにしたい
「とりあえず、片付けるぞ」

 成瀬の低い声が聞こえ、真理子ははっと我に返る。


 真理子は湯呑や茶托をトレーに乗せると、ふと座ったままの常務に顔を向けた。

 常務は腕を組んだまま、じっと目を閉じている。

「常務?」

 真理子が声をかけると、常務はゆっくりと目を開き小さくほほ笑んだ。


「こんな感情論で話をしてはいけないのはわかっているんだがね。私はどうしても、電飾玩具事業の撤退は認められないんだよ。それが先代との約束なんだ」

 常務は静かに立ち上がると、真理子と成瀬の顔を交互に見つめた。

「二人で社長を説得してくれないかな?」

 成瀬と共に見た常務の顔は、とても寂しそうだった。



 真理子はダイニングテーブルに食器を並べると、壁に掛かった時計を見上げる。

 それを見計らったかのように、玄関の扉が開いた。

「あ! パパだぁ」

 乃菜の元気な声が聞こえ、真理子は成瀬とそっと目を合わせた。
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