成瀬課長はヒミツにしたい
 真理子はその後姿を、そっと眺めていた。

 しばらくして、遠くからパタパタと走る足音と共に、話し声が聞こえてくる。

「社長―! ちょっとこれ、見てもらえませんか?」

「あぁ、また調子悪くなったのかぁ。後で確認するから……」

 その話し声を聞いた瞬間、真理子ははっとして顔を上げた。


 看板に書かれた会社名、女性の笑顔……そして、この声。

 真理子の中で、バラバラになっていたものが一つにつながる。


「お待たせしました」

 すると入り口から入ってきた声の主を見て、真理子は思わず立ち上がった。

「お久しぶりです。真理子さん……と、成瀬課長」


「……卓也……くん?」

 真理子は目を見開くと、思わず卓也の側に駆け寄り、懐かしい卓也の手をぎゅっと握る。


 専務の一件を告白した日以降、卓也は真理子に一度も姿を見せないまま退職した。

 あの日、最後に見た卓也の顔は、ひどくやつれて憔悴しきっていた。

 真理子はもう一度、握った手に力を入れると、卓也の顔をじっと見上げる。
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