成瀬課長はヒミツにしたい
 今、目の前で、スーツの上に作業着を羽織り、照れて頭をかく卓也の表情は、真理子が知っている卓也とは比べ物にならない程、精悍(せいかん)で一回りも二回りも立派に見えた。


「おい……」

 突然後ろから成瀬の声が聞こえ、真理子は慌ててぱっと卓也の手を離す。

 卓也はぷっと吹き出すと、真理子の肩をそっと押してソファに座らせた。


「忙しいのに、急に悪かったな」

 成瀬の言葉に、卓也は二人の正面に腰かけながら大きく首を横に振った。

「とんでもない。最初は驚きましたけど、俺もちゃんと話したかったし……」

 卓也はそう言うと、チラッと真理子の顔を見る。

 真理子は、まだ驚きの隠せない表情のままだった。


 ――柊馬さんは、卓也くんの実家のこと、知ってたんだ……。


 卓也の実家が町工場で、ましてやサワイの仕事を請け負っていたなんて初耳だった。


「真理子さんには、いつか話そうと思ってたんですよ。真理子さんが、デスクに置いてた王冠のおもちゃ。あれ、すごく大切にしてましたよね?」

「うん……」
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