成瀬課長はヒミツにしたい
「あれは、製品化の時からうちの工場で作ってるんです」

「え?!」

 真理子は思わず、小さく叫び声をあげる。


 子供の頃から大切にしていた王冠のおもちゃ。

 真理子が、サワイで働きたいと思ったきっかけになった電飾玩具は、卓也の実家で作られたものだったのだ。


 ――だから、自社工場にはなかったんだ……。


 真理子は自社工場で見た、ハートのステッキや他の玩具を思い出す。


「うちの父親って根っからの職人で、品質にすごいこだわりがある人なんですよ」

 卓也が小さく肩をすくめながら話を続けた。

「その姿勢を、サワイの先代がすごく買ってくれてて。サワイの自社工場ができて、ほとんどの商品が自社工場に移った時、『あの王冠だけは、佐伯製作所に任せたい』って、言ってくれたらしいんです」

 そこまで話して、卓也は顔をうつむかせた。

 真理子は卓也の悲しそうな顔を見ながら、胸が苦しくなる。
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